“赤”側のサーヴァントの一人。シロウ・コトミネに謀られた形になったものの、状況を理解してやむなく従うことにした。シロウの願望が成就するか否かよりも、“黒”のアーチヤーとの対決を心待ちにしていた根っからの武人。
真名をアキレウス。トロイア戦争において武勇を誇った、人類最速の英霊。知名度という点では、間違いなくヘラクレスに比肩する―――何しろ人体の急所に、彼の名(アキレウス)が記されているのだ。
だが、その知名度とは裏腹にアキレウスが活躍した時期は比較的短い。その活躍も、ほとんどがトロイア戦争にのみ刻まれている。彼は人生の岐路を幼い頃に突きつけられた、その戦争で華々しい活躍を遂げる代わりに人生を疾風のように駆け抜けるか、世の誰にも知られぬような人間となって長く生きていくか。
アキレウスは母親に迷わず答えた。―――短くも華々しい人生を、と。
アキレウスはケイローンの手により育てられ、英雄としての教育を施されてからトロイア戦争へその身を投じることとなった。盟友パトロクロスとの出会い、妻との出会い、実戦と宿命のライバル、ヘクトールとの出会い―――。
それら全てを喜びとして、アキレウスはまさしくその足で人生を駆け抜けたのだ。
サーヴァントとしては間違いなく一流。ギリシャ神話の並み居るサーヴァントの中でも、ヘラクレスに次ぐ実力を誇っている。宝具も異常に豊富。当初は宝具を全て書き上げて、さてこれからどのくらい絞ろうかと相談したときに「宝具山盛りの超強力サーヴァントでいいんでちゅよ?(N・K氏)」とあっさり全部採用されたため。まさか全部フル活用する羽目になるとは……。
当然ながら、本来の聖杯戦争では使えば即魔力切れになりかねないサーヴァントである。特にライダーは戦車の魔力消費が尋常でなく激しく、彼を真っ当に扱えるなら超一流のマスターと言えるだろう。
なお、アキレウスはライダー以外にもランサー、バーサーカー、そして珍しいことにシールダーとしての適性がある。他クラスに変わる度に宝具のラインナップが微妙に異なる。例えばランサーの場合、ライダーの宝具である戦車を失うが、槍にHP削減の副次効果がつく。
彼の致命的な弱点である踵は不死性を保持する宝具『勇者の不凋花』と最速を謳われる宝具『彗星走法』の楔にもなっており、貫かれた時点でこの二つの宝具は消滅する。一度貫かれると、その治癒は極めて困難で、余程の術でなければ走力を完全に取り戻す方法はない。
今回の聖杯大戦では、師匠である“黒”のアーチャーとの対決を望み、そのためにシロウ・コトミネの行動に賛意を示した。セミラミスはともかくとして、シロウに対してはそれほど悪感情を持っていなかった故か。“黒”のアーチャーがいみじくも漏らした通り、アキレウスは敵と味方の認識が甘い。この辺は敵と味方に分かれようとも殺すときは殺す、と割り切ることができるクー・フーリン兄貴とは経験の差があるのだろう。
アタランテとの関係は、実は生前父より話を聞かされたところから始まっている。どこか穏やかで、母に頭が上がらない男が照れ臭そうに彼女の話をしてくれたため、幼いアキレウスはずっとアタランテのことを覚えていたのだ。もっとも、生前に出会うことは叶わなかったのだが。
戦いに夢中になりすぎて、彼女の変貌を見過ごしたことをアキレウスは咎と考えている。暴走する彼女と戦ったのは、贖いのため。アキレウスが泣いたのは、アタランテの夢を打ち砕いた申し訳なさのため。
だが、その甘さと涙こそが最後の最後でアタランテに僅かな救いを与えたのだと思いたい。
サーヴァント