“赤”のアサシン

“赤”側のサーヴァント、黒幕衆の一人。黒衣のドレスを纏った絶世の美女。我と書いてそのまま「われ」と読む割とドストレートなお人。
真名はセミラミス。世界最古の毒殺者と呼ばれる伝説的な女帝。クラスはアサシンであるものの、実質的にはキャスターとしてのクラスも兼ねている。退廃的な絢爛を好むが、素朴なものも嫌いな訳ではない。今回の聖杯大戦において、シロウ・コトミネと共に第三魔法の成就に乗り出した。
アサシンクラスとしては敏捷ランクも気配遮断も低ランクで褒められたものではないが、宝具『虚栄の空中庭園(ハンギングガーデンズ・オブ・バビロン)』による魔術攻撃はそこらのキャスターなど裸足で逃げ出すほどの威力を誇る。特に『虚栄の空中庭園』は字面通り浮遊して動き回ることが可能なので、強固な守りを得つつ攻めることも可能。
ただし、本来の聖杯戦争においてセミラミスは極めて不利な立ち位置にある。宝具が大仰なため、気配を遮断するのは不可能に近いこと。そして、そもそもその宝具を起動可能にするまでが非常に困難なことが理由として挙げられる。更には、苦労して空中庭園を発動させたとしても、残ったサーヴァントたちが手を組んだ場合、たった一人で庭園を守らなければならなくなる。いくら無類の強さを誇るといっても、単独ではどうしても不利になる。今回のような聖杯大戦こそが、彼女の本領を発揮できる数少ない機会だったかもしれない。
彼女もアタランテ同様、赤ん坊の頃に母親に捨てられた。彼女の場合、半分が神だったためか鳩たちが彼女を温かく包み、養育したと伝えられている。その後、老将軍オンネスに嫁いだものの彼女の美貌に惹かれたニノス王によって強引に身柄を奪われてしまう。セミラミスはニノス王に献策を授け、寵愛を深めたものの王妃となった数日後にニノス王を毒殺した―――とされている。
彼女の根幹にあるのは、絶対的な他者への拒絶である。孤独は好まないが、孤高を好む彼女にとって、全ての人間は「無心で仕える者」でなくてはならない。味方側であるはずのサーヴァントたちが悉く彼女を嫌っているのも、その思想を敏感に感じ取っていたからだろう。
……が、「仕える者」でなく「共に歩む者」でありながら、セミラミスという存在そのものに全く関心を持とうとしなかった聖職者兼サーヴァントによって、彼女の想いは千々に乱れていく。
セミラミスにとって「美貌」ではなく「能力」を純粋に評価されるのは初めてだったから。最初はその態度に好感を抱き、次に妙な怒りを覚え、最後に生まれて初めて味わう感情―――切なさと言うべきものに胸を痛めた。
結局のところ、彼女が真に好むのは自分のことなどまるで顧みないで前に進む人間だったのだろう。……それを自覚したときには、既に遅かったのだけど。
第三魔法が成就した際には、世を統べる女王になる……とシロウには言われていたのだが、実のところそこまで世界の支配に拘っていた訳ではない。彼女が本当に求めていたもの、望んでいたもの―――それは女帝自身にすら、瀬戸際まで理解できないものだった。
毒婦が真に求めたものは純粋な水ということなのかもしれない。

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