“黒”側のサーヴァントの一人。真名はアストルフォ、シャルルマーニュ十二勇士の一員である。イングランド王オットーの子であり、将来的には王となる定めだった。
本作における二大問題児。シャルルマーニュ十二勇土の中で誰からも愛される美貌の持ち主でありながら、誰よりも実力的に劣っていた「弱い」騎士である。
しかし本人はその弱さを一向に気にせず、馬上試合などで敗北して落ち込んでもすぐ忘れていた。そんな楽天家なアストルフォには幸運がついて回るのか、あるいはその姿勢が愛されたのか、様々な宝具を手に入れることになる。
魔女からはあらゆる魔術を打破する『破却宣言(キャッサー・デ・ロジェスティラ)』を贈られ、アルガリアが忘れていった馬上槍『触れれば転倒!(トラップ・オブ・アルガリア)』を借り受け、邪悪な魔術師アトラントから『この世ならざる幻馬(ヒポグリフ)』を確保した。
アストルフォはその宝具をフル活用して、様々な冒険を繰り広げることとなる。
……ちなみに借り受けた品のほとんどは誰かに乞われると快く貸し出したあたり、基本的に品物に執着しないタイプなのだろう。だからこそ、アストルフォの人生には様々な宝具がついて回ったのかもしれない。
アストルフォの服装は趣味———ではなく、趣味ではなく、愛した女性に撥ね付けられて狂乱したローランを鎮めるために身につけたものである。どうして召喚された際にもその姿だったのかというと恐らく、大聖杯が「アストルフォの全盛期」をそこに定めたからではないだろうか。酷い話だ。
サーヴァントとしては二流も二流。一流に届く実力はなく、豊富な宝具で多少は有利に進めることができても、セイバークラスなどの実力者には地力の差で圧し負けるだろう。
だが、聖杯大戦の一つのコマとして考えると豊富な宝具は戦略の幅を押し広げることができ、相手を行動不能に陥らせる、あるいは混乱させる宝具は足止めに適している。
まさしく聖杯大戦向きのコマと言えるのだが……残念なことに、アストルフォの価値観が通常と異なっている。たとえホムンクルスでも助けを求められれば全力で応じるし、それが自陣の損になることを承知していても、やってしまうのだ。
スキル『理性蒸発』により、魔獣限定の特殊スキル『怪力』を低ランクながら並行して取得している他、対魔力が宝具のお陰でAランクに向上している。地味に魔術師のマスターを相手取るときはほぼ無敵という厄介な仕様。マスター殺しを目標とすれば、聖杯戦争の勝利も夢ではないかもしれないが―――いかんせん、他ならぬアストルフォ自身が絶対に拒否するタイプの作戦なので、夢のまた夢であろう。
本編ではその底抜けにお人好しで、楽天家で、何より行動的な部分が物語を大きく動かした。ジークが車輪の軸、ルーラーが車輪だったとすれば、アストルフォは潤滑油のようなもの。なお、『理性蒸発』は当然ながら良いスキルではない。理性がないということは、己の欲望を律することができないのだから。だがしかし理性がないアストルフォは、「悪事を働く」という発想がそもそも本能レベルで淘汰されているので結果的に善良なのだった……!
ジークに対しての感情は熱烈かつ明けっぴろげ。ちなみにアストルフォは男女の性差を全く気にしない。惚れてしまえば、それが男女どちらかなど些細な問題なのである。ジークが望めば多分、喜んでお相手してくれただろう。もっともジークもまた、生殖行為など己以外の生物に存在するものという言葉だけの認識なのだが。
聖杯に託する願いはあるにはあるが、それが何なのかまだ考えていない。願いが叶う段階になってから考えようという実に出たとこ主義。そんなアストルフォが何故聖杯戦争に召喚されるかというと、カルナと同様に自らを呼び出すほどに困っているのならば、助けてあげようという使命感からだ。他クラスだと、何故かセイバークラスに該当するらしい。
本編の後、アストルフォは放浪の旅に出る。人類は種として未熟である、アストルフォもまたサーヴァン卜として未熟である。だからといって、懸命に生きている彼らの人生を意味のないものにすることはやはり間違っていたのだろう。アストルフォは楽天的に、報酬らしい報酬を望むこともなく助けたいものを助け、生きたいときまで生き続けるだろう。その在り方はどれほど弱くとも、やはり英雄に相応しいものなのだ。
サーヴァント