“黒”側のマスターの一人。ユグドミレニアの頂点に立つ存在。階位は最高位の冠位であるが、これは「Apocrypha」世界でのみ起こった珍事である。というのも、亜種聖杯戦争が起こりすぎたため、「Apo」世界では魔術師の数が激減している。それに伴って、生き残ったほとんどの魔術師が、本来の階位より一段階上にスライドした。色位(プライド)であるダーニックはこの機会を逃さぬとばかりに、得意の八枚舌で「実力的に冠位には到達していないけど、協会への功績を称えて本来の冠位とはちょっと違う名誉的な冠位」に昇格してしまった。何だこの一時期流行ったラー油みたいなの。……もっとも本来の冠位からすれば、ダーニックおじさんの冠位など到底認められるものじゃないから当然ではあるが。
ダーニック自身も、別段名誉に拘った訳ではない。ただ単純に、冠位の方が独立の際に有利であろう、程度のものである。
とはいえ、ダーニックが弱いのかというとむしろ逆。フィオレも突出した才能を持ってはいるが、執念+才能+経験という点でダーニックにはまず勝てない。通常通りの聖杯戦争やあるいは魔術師同士で戦闘を行った場合でも勝利者はダーニックで変わらないだろう。
“赤”側のマスターであれば、協同でならば倒せるだろうがそれも確実ではない。
人間の魂を主に研究しており、最終的には英霊の魂と融合するまでに至った。もちろん緊急措置的なものであり、本来は可能な限り精度を上げて「ダーニックという意識を保ったまま、英霊の力を保有する魔術師」が目標地点だった。
また、魔術師としても一流だが政治家としても一流。救急車を追いかけてでも訴訟させようとするアンビュランス・チェイサーとはアメリカで弁護士を揶揄する言葉であるが、ユグドミレニアも似たようなものだった。亜種聖杯戦争で叩き潰された魔術師を即派閥に組み込み、水面下で勢力を拡大し続けていたらしい。
決して好んで努力をするタイプの人間ではないが、何十年経とうが軽んじられた復警を果たすあたりは人一倍の執念深さが窺える。ユダドミレニアとして、わずかながら一族に対する同調意識も存在するので「世界の端に追いやられようとしている魔術師たちの執念」がダーニックに集積されていたのかもしれない。
もし仮に聖杯を手に入れることができず、通常の魔術師として過ごした場合はあと二百年ほど生きたあたりでダーニック・プレストーンという人格が完全に希釈され、「ユグドミレニア」という名の鋼鉄のような魔術師が仕上がっていた。
……そうなったとしても、もしそれで根源に近付くことができるならば、ダーニックは躊躇わなかっただろう。だが、「大量の魂によって薄められたダーニックという人格」は果たして生きているのか、死んでいるのか、有り得ない未来として根源に辿り着いたとしてもダーニックが喜べるのか。それが彼にはどうしても分からなかった。
ちなみに第三次聖杯戦争のときは、間桐の爺様と仲良く激戦を繰り広げていたらしい。
人名