“黒”のアサシンのマスター、女性。“黒”のマスターの中では唯一ユグドミレニア一族ではない。幼い頃は極めて教養豊かなお嬢さまだったが、両親が事故死してからあれよあれよという間に転落人生を歩み、現在は娼婦をしながら男を養っていた。
その男こそが、相良豹馬である。彼は暗示をかけて玲霞を操作し、すっかり信用させたところでジャック・ザ・リッパーを召喚するための儀式に利用した。ところが、玲霞が死ぬ前にジャックが召喚されてしまい、玲霞は相良豹馬より先にジャックと契約を結ぶ。召喚したはずの相良豹馬はすぐに殺害され、玲霞はなし崩し的に“黒”のアサシンのマスターとなった。
聖杯大戦のことをジャックから聞いて、ルーマニアへと渡った玲霞は魔術師ではないために見つかりにくいというアドバンテージを利用しつつ、情報と魔力を収集。どうにかして“黒”のマスターたちを暗殺しようと目論んだのだが———。
彼女たちの結末は四巻にて。
実は今作の中で唯一無二の天然天才かつ天然怪物。物事に対する理解度や観察眼が尋常ではなく、武器も乏しく魔力も乏しい状況で、アサシンの優位性を常に保ちながら、平然と魔術師たちを屠り続けた。日本を出国する前にも、ユグドミレニアの暗殺部隊をジャックと共に返り討ちにしている。ついでに語学も極めて堪能。ラテン語もスラスラ。
殺人に対して一切の躊躇がなく、生存に不要な感情は持たず、「聖杯を獲る」と決めたら、ただひたすらそれに向けて邁進する。その癖、自らの願いは大したものではない。命を救われたジャックのために、AIのように最適化戦略に勤しんでいる。
ジャックに対しては唯一人間らしい愛情を注いでいる。二十数年生きた人生の中で、彼女だけが唯一、無償で自分を救ってくれた存在だからだ。ある意味で、玲霞は確かにジャックの被害者に酷似しているが、一点だけ異なっていた。奪われるだけの人生、踏みつけられるだけの人生、けれど彼女は誰からも奪うことはなかった。流されるように生きている———最早、ただ心臓を動かしているだけの空虚な人生だとしても、己の生命だけは握り締めていた。
それは第三者からすれば、全く意味のないもの。心臓だけを後生大事に抱えて歩いている下らない、つまらない人生。それを“黒”のアサシン、ジャック・ザ・リッパーは意義あるものだと見なしたのだ。
たとえ彼女には、母の面影をどんな女性にも見る残酷な無邪気さがあったとしても。
一歩間違えれば、ジャックはあっさりと玲霞を殺していたとしても。
自分の命を、「獲らない」と選択してくれたジャックは眩いほどに愛しい存在だった。だから、“赤”のアーチャー、アタランテに狙われたときに彼女はまったく後悔せずにジャックを庇うことができたのだ。
それがどれほどに愚かしい振る舞いだったとしても。
彼女は一切の後悔なく人生を自らの手で閉じたのだ。
人名