“黒”のセイバー

“黒”側のサーヴァントの一人、真名をジークフリー卜。『ニーベルンゲンの歌』に登場する、文句なしの大英雄であり、"竜殺し(ドラゴンスレイヤー)"である。背が高く細身、褐色気味の肌は竜の血を浴びた証である。弱点である背中が丸出しなのはそういう「呪い」のため。概念的に背を守ることができない。こう、球体バリアーみたいなものでジークフリートを防護しても、背中の部分だけは必ず穴が開かれる。もっとも、背中を狙う芸当をジークフリート相手にできる技量を持つ英雄は、そうはいないのだが。
その顔のイメージ通り、無口であるが気品溢れる佇まいは育ちの良さを思わせる。朴訥とした口調で、言葉は必要最小限に留めるタイプ。それが元で、マスターであるゴルドとの対立が深まってしまう。
ジークフリートの伝説は五〜六世紀頃に成立し、様々な土地へ広まっていった。『ニーベルンゲンの歌』とほぼ同時期に、英雄シグルドの物語『ヴォルスンガ・サガ』が成立している。ワーグナーの歌劇『ニーベルングの指環』はこれらの伝説を纏め上げた傑作である。
本作においては『ニーベルンゲンの歌』で描かれたジークフリートが基本骨子となっており、彼は北欧のワルキューレの存在を知識でしか知らないだろう。
王族という高貴な血筋、様々な冒険と英雄譚、そして悲劇的な最期も含めて、これほどまでに英雄らしい英雄も、そうはいまい。
だがその英雄らしい英雄だからこそ、彼は無意識に縛りを掛けていた。英雄とは、人に乞われて成るものであり、乞われないのであれば動いてはならないと。何故なら、英雄とはそういうものだ。あまりに圧倒的で膨大な力を持つが故に、自分の意志で動いて自分の願いを叶えようとしてはいけない。英雄とは人の願いを叶えるものであり、それ以外のことには決して踏み入ってはならないと。
自身の妻と義兄の妻が互いに名誉を傷つけ合い、激突が不可避となったとき、彼はまたも皆の願いを叶えた。その切っ掛けである己が死ねば良いのだ、と。結果的にそれが更なる悲劇を呼び込むことになるあたり、ラインの黄金の呪いがバッチリ効いている模様。
サーヴァントとしてはとにかく硬い、固い、堅い。『悪竜の血鎧(アーマー・オブ・ファヴニール)』はBランクの通常攻撃、B+ランクの宝具攻撃を防ぎ、更に『幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)』は対軍で真価を発揮する広範囲レンジ攻撃。剣の柄に嵌められた青い宝玉は神代の魔力が秘められており、ほんの少量で剣の力を最大限に引き出す。カルナ戦の際に、ジークがあれほど宝具を連発できたのは『ガルバニズム』で自身の魔力を補給しつつ、剣の力を瞬時に引き出し続けたからに他ならない。サーヴァントのジークフリー卜は本人の消費する魔力を瞬間的に補給することができないため、ジークほどではないにせよ平均的な対軍宝具より溜めが圧倒的に早い。
当初のユグドミレニア側の予定としてはヴラド三世の守り手として、ジークフリートが前面に出てサーヴァントたちの攻撃を受ける。ヴラドは『極刑王(カズィクル・ベイ)』で戦場を支配下に置く。ジャック・ザ・リッパーはマスター殺し、フランケンシュタインと共に後陣の混乱を狙う。アストルフォはアヴィケブロンと共にゴーレムを誘導して状況をコントロール、ケイローンは穴が出来そうな場所を支援狙撃。
まさに机上の論理としては完璧だったのだが、ジークフリートまさかの戦前退場により泣く泣く作戦変更を余儀なくされたのであった。

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