ケイネス・エルメロイ・アーチボルト

学生時代から神童と謳われるほどの才能の閃きを見せ、降霊学科では最年少で講師の座に着く。学究の才能ばかりでなく政治的手腕も巧みで、家門の良さ故に有力なコネも大勢。ゆくゆくは時計塔内の最大派閥を形成するものと嘱望されていた。
彼が聖杯戦争に参加する理由には必ずしも切迫したものがあったわはではなく、自らの経歴の中に「武功」として評価される逸話も欲しくなった、という程度のものでしかない。『始まりの御三家』の必死ぶりを侮っていたわはではなかろうが、それを才覚のみて圧倒できてこそのロード・エルメロイ、という自負があったのだろう。
どちらかといえば研究畑の人間だったにもかかわらず、おそろしく剣呑な礼装を準備していたのは、単純に趣味の産物である。彼は降霊術のみなら、ず様々なジャンルの魔術で才能を見せ、その出鱈目な多才ぶりは平賀源内か曹操か、という有様であった。
英霊を使役するサーヴァントという存在すらも、彼にとっては数ある礼装の一つ、程度の認識でしかなかったのだろう。英霊の人格というものを認める気が毛頭なかったが故に、ディルムッドの忠義に打しても最後まで理解を示すことができず、結果として自滅も同然の敗退を遂げる。
とはいえ実のところディルムッドも、マスターとして自分の忠義を受け止めてくれる相手なら誰でも良かった節があり、ケイネスその人の人柄と向き合っての相互埋解を怠っていたのは事実である。もし板にディルムッドが、ケイネスの才能と経歴にメロメロになるほど感服した上で忠誠を誓っていたならば、ケイネスとてもうちょっと柔らかい接し方をしたんじゃなかろうか。
まあ、サーヴァントと信頼関係を築けなかったことは、ケイネスにとって二番目の不運に過ぎず、ブッチギリに一番の不運は、衛宮切嗣と巡り会ってしまったことに尽きる。魔術師としての位階は切嗣よりはるかに勝りながらも、殺人者としては切嗣に及ぶべくもなく、聖杯戦争という殺し合いにおいての敗退は必定であった。ケイネスの突然の死によって、彼が時計塔において積み重ねてきた多くの貴重な研究は未整理のまま放置され、あやうくその成果は散逸してしまうところだったのだが、いちばん無能だった一人の元弟子が、『魔術の実践はからきしなのに、理論の再解釈と系統分類は天才的』という妙な才覚を持ち合わせていたことで、最終的には『ロード・ケイネス秘術大全』という一冊の魔道書として編纂され、すべての秘術はアーチボルト家の管理上へと戻されて、後の家門の繁栄を盤石のものとした。
ちなみに第4次聖杯戦争におけるランサーチームの必勝パターンは……
・サーブァントに戦場の誉れとか騎士の誇りだとかを意識させない。聖杯戦争は汚れ仕事の処理業務だと常に諦観させておく。
・前述の条件を満たすために、セィバーとの接触は極力避けること。
・戦闘においては常に退路の碓保を最優先し、ゲイボウを一撃当てたら目的達成とみなし撤退する。これを繰り返し、各敵対チームの消耗を待つ。
・バーサーカーチームを活用する。他サーヴァントに対しては強敵でありながらランサーだけが相性関係で優位に立てる相手なので、可能であればバーサーカーを最終局面まで生存させて他チームの殲滅を任せ、しかる後に討ち取るのが望ましい。

Fate/Zero material: Fate/Zero用語辞典
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本編未登場ながら、名前は何度も出てくるエルメロイII世の師匠。
先代ロード・エルメロイ。鉱石科の君主。十代にして典位を取得して神童の名を確立した後、ニ十代早々で色位の階位まで獲得。至上礼装として認められる月霊髄液までつくりあげたあげく、降霊科の君主の娘とも婚約し、順風満帆としか言いようのない人生を謳歌していた。
が、これは第四次聖杯戦争に参加するまでの話。
ここまでの業績を積み上げ、聖杯戦争にも当然余裕で勝利するつもりで、幾多の礼装を用意したケイネスは無惨にもそのすべてを失って、第四次聖杯戦争で敗北する。
この際、彼の魔術回路も源流刻印も破壊した魔術使いの名は衛宮切嗣。
後に、ハートレスが神霊イスカンダルの術式に持ち出した封印指定―――衛宮という名の魔術師は、彼の父にあたる。八巻ラスト、十年越しに師父を殺した名を見つけたエルメロイII世は、過去からの銃撃に撃たれた思いだったろう。

ロード・エルメロイⅡ世の事件簿 material: ロード・エルメロイⅡ世の事件簿用語辞典